Design: Takuya Matsumi, Photo: Da Zhuang

2020年度の活動概要

テーマ:老いと伝統、日本舞踊と能楽、バレエ
今年度はバレエと日本の舞踊という伝統での老いを巡って研究会を開催しました。日本の舞踊家の老いを支える作品形式や美意識、師弟制度が残る日本舞踊や能楽を参照しながら、ジェンダーや観客受容の点で、老いの美意識をどう現代化していけるかを、研究会で探っていきました。

研究会メンバー紹介

中島那奈子(研究代表者)

天野たま
1993年生まれ、京都市在住。京都大学文学研究科日本史学専修修士課程修了後、保育士として働き、現在はフリーランスとして子どもと学びや文化をキーワードに関わり続けている。幼少期より気功や野口整体的環境の中で育つ。学生時代に日本舞踊や能の世界、モダンダンスに触れ、身体表現、特に古典芸能に惹かれ、それ以降、京舞・仕舞・茶道・煎茶道・かな書道の稽古を続けることで、自分の身体に先人の知恵を刻むことを楽しんでいる。

児玉北斗
2001年よりダンサーとして国際的に活動、ヨーテボリオペラ・ダンスカンパニーなどに所属しマッツ・エックらの作品にて主要なパートを務めた。振付家としても2017年に東京でソロ作品『Trace(s)』、2020年に京都で『Pure Core』などを発表し高い評価を得る。現在は立命館大学博士課程に在籍する傍ら、芸術文化観光専門職大学の専任講師としてダンスをめぐる研究・実践・教育に取り組んでいる。

髙林白牛口二 
1935年京都市生まれ。幼少より父高林吟二のみに能楽師としての手ほどきをうける。1971年喜多流職分となる。1982年4月より、400年の伝統がある京都の喜多流の開示公演「喜多流・涌泉能」を続け、能楽の普及や伝統維持、後継者育成に尽力。初舞台1938年「飛鳥川」子方、1998年「卒都婆小町」、2009年「鸚鵡小町」、2012年「伯母捨」、上記の老女物を3番勤める。2016年「江口」を最後に「シテ」を舞う事より引退。現在は1曲を1時間掛けて独演で謡い上げる事に挑戦している。

平井優子 
幼少よりバレエを始め、日本女子体育短期大学、CDCトゥルーズ(仏)でダンス、振付を学ぶ。数々の客演を経て、2001年よりダムタイプメンバーとなる。高谷史郎等のコラボレーション作品制作に参加する他、能楽師らとの共演、MVの出演など活動は多岐にわたる。自身の演出作品「愛について語る時に我々の語ること」、「猿婿-The face of strangers」など。第17回福武文化奨励賞受賞。

森山直人 
1968年生まれ。演劇批評家。京都芸術大学舞台芸術学科教授、同大学舞台芸術研究センター主任研究員、機関誌『舞台芸術』編集委員。同志社大学、立命館大学でも非常勤講師をつとめた。著書に『舞台芸術の魅力』(共著、放送大学教育振興会)等。主な論文に、「「演劇的」への転回 ––「舞台演劇」の時代の「批評」に向けて」(『舞台芸術』23号)、「「日本現代演劇史」という「実験」–– 批評的素描の試み」(『舞台芸術』22号)、「〈オープン・ラボラトリー〉構想へ:「2020年以後」をめぐるひとつの試論」(『舞台芸術』20号)、他多数。

山田せつ子
ダンサー/コレオグラファー/京都芸術大学舞台芸術研究センター主任研究員。明治大学演劇科在学中から笠井叡に即興舞踏を学ぶ。独立後ソロダンスを中心に独自のダンスの世界を展開する。1983年、フランスアヴィニョン・シャルトルーズフェスに招待されて以来、国内のみならず海外での公演も多数行う。1989年〜ダンスカンパニー枇杷系主宰。2000年〜2011年京都造形芸術大学(現、京都芸術大学)映像・舞台学科教授。現在、ダンス、演劇のプログラム企画に携さわりながら、ソロダンス活動、若手ダンサーとの共同作業も行っている。2019年度日本ダンスフォーラム大賞受賞。著書ダンスエッセイ『速度ノ花』(五柳書院)。

天野文雄(共同利用・共同研究拠点リーダー)
竹宮華美(共同利用・共同研究拠点事務局)

第二回研究会の様子

第一回研究会(Zoom開催)
2020年7月11日(土)14:00-17:00

第一回目の研究会はZOOM形式で、メンバーの活動・自己紹介と『老いと踊り』について意見交換をおこないました。また、2014年に撮影しこのたび編集を行なった日本舞踊家の花柳寿南海さんと花柳大日翠さんの対談映像を、お二人の舞台映像とともに上映しました。日本舞踊での家元制や師弟制、舞踊家の形式と言われる「素踊り」、踊りにおける自由や老いについてなど、対談や舞台映像を踏まえて、研究会メンバーとともに議論を行いました。老いの美意識をつくる基盤として、日本の伝統芸能には家元制があるものの、コンテンポラリーダンスの場合は振付家が初代となり、その世代を超えた美意識の継承は難しいのではという指摘がなされました。

花柳寿南海
花柳寿京師・花柳寿陽師に師事し、1942年に二代目宗家家元花柳壽輔(壽應)師より、花柳寿南海の名を許される。1946年より二代目家元の許で内弟子修行し、「木の花会」「花柳寿南海の會」「花柳寿南海とをどりを研究する会」を主宰する。古典の研鑽とともに、創作にも意欲を注ぎ、作品に「大和路」「湯女群像」「吾輩は猫である」他。受賞歴に文部省芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章、日本芸術院賞、2004年に重要無形文化財保持者(人間国宝)認定、2005年に文化功労者顕彰。2018年に老衰により永眠。

花柳大日翠
花柳寿南海に師事。東京藝術大学音楽学部邦楽科日本舞踊専攻卒業。2009年文部科学大臣奨励賞受賞。2014年福武文化奨励賞。2016年山陽新聞奨励賞。2020年第二十四回日本伝統文化振興財団賞受賞、マルセン文化特別賞。古典作品も修練しつつ、創作舞踊にも取り組み、「家電シリーズ」洗濯機・電子レンジ・炊飯器、「東京」等。


「花柳寿南海、花柳大日翠の対談」
2014年4月17日、東京、花柳寿南海稽古場にて
解説:中島那奈子
撮影:西野正将
編集:樋口勇輝
字幕翻訳:ジョン・バレット
“Hanayagi Toshinami and Hanayagi Oohisui in Conversation”
This conversation was recorded on 17 April 2014 at the Hanayagi Toshinami rehearsal space in Tokyo.
Mediator, transcription, and explanation of the glossary of terms: Nakajima Nanako.
Cameraman: Nishino Masanobu
Editor: Higuchi Yuki
English Translation: John Barrett

第二回研究会(Zoom開催)
2020年8月31日(月)15:00-18:00

第二回は、京舞研究の第一人者、桜美林大学准教授の岡田万里子さんに「京舞井上流の舞と老い」をテーマに、三世井上八千代さんに焦点をあて、緻密な歴史考証のうえに、代々長生である井上流で「老いの舞い」イメージがどう定着したか、レパートリー継承や都をどりの新作としての位置づけなど、資料と照らし合わせながらの、舞の謎解きを試みました。様々な伏線がネットワークのように繋がり、井上流と老いの舞いをリンクさせるスリリングな展開に、ドキドキしました。振りや動きなど、老いという側面を浮かび上がらせる素晴らしい講演と、またその後、6時間にもわたり刺激的な議論が行われました。

岡田万里子
早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文学)。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館助手、日本学術振興会特別研究員、パリ第4大学ソルボンヌ校極東研究センター招聘研究員、ミシガン大学トヨタ招聘教授などを経て、現在、桜美林大学准教授。サントリー学芸賞、河竹賞奨励賞、林屋辰三郎藝能史研究奨励賞受賞。著書:『日本舞踊曲集成(2)京舞・上方舞編』(演劇出版社)『京舞井上流の誕生』(思文閣出版)

第三回研究会(京都芸術大学、対面とZOOMを併用)
2020年11月1日(日)17:00-19:30

第三回は研究会メンバーの児玉北斗さんに「Dance as Work : ダンスにおける作品と仕事についての一考察」という発表を行なって頂きました。児玉さんは、欧米のバレエダンサーとしてのキャリアで直面したいくつかの問題を提示しながら、アメリカの哲学者ネルソン・グッドマンの芸術理論「オートグラフィック/アログラフィック」概念をもとに、ダンス・カンパニーにおける仕事のあり方、例えば(オートグラフィックである唯一のダンサーとしての私)VS(アログラフィックである決められた動き)の対比を考察されました。ダンスの作品概念とダンス・カンパニーの活動がリンクしたものであることや、それを巡って構築される制度との関係性の中で、ヌレエフ・森下洋子のような、バレエでの稀有な老いのあり方への示唆もあり、スウェーデンのバレエ振付家マッツ・エックが自らの家族の老いを扱った作品や、ピナ・バウシュの例外的なカンパニーの例、バレエを成立させる42歳定年制度など、日本の舞踊とは対照的な、芸術と社会の構造が浮かび上がりました。

発表レジュメ

第四回研究会(Zoom開催)
2021年1月31日(日) 14:00 – 16:00

今年度、最後となる研究会は、北京の演出家・振付家メンファン・ワン氏を招いて公開(オンライン)で研究会を開催しました(日英通訳:辻井美穂)。前作では子供達とのダンス作品を発表したワン氏は、2019-2020年に、中国国立バレエ団を引退したバレエダンサー二人との作品 “WHEN MY CUE COMES, CALL ME AND I WILL ANSWER” を創作しました。公開研究会では、ワン氏を招いてこの創作過程とドラマトゥルクとの協働について、中島との対談を交えながら、お話しを伺いました。研究会には多くの関心が寄せられ、300人の事前予約に、当日の聴講者数は160人にものぼりました。

メンファン・ワン
1990年生まれ、北京拠点のインディペンデントの演出家・振付家。中国とドイツで美術史と舞踊学を学ぶ。2015年より、自らのダンスシアター作品の中で様々なグループの人々と協働し、高齢の女性、子供、引退したバレエダンサーと作品を作る。クリエーションの過程では、ワンは劇場でそのような人々のパフォーマティヴな表現を探す手助けをし、彼らの身体が異なる美学やイデオロギーによって形作られることを理解したいと考えている。ワンの作品はVIE Festival Bologna, 北京フリンジフェスティバル、烏鎮演劇祭に招聘されている。2018年ドイツのダンス雑誌tanzから、奨励賞 (Hoffnungsträger)を受ける。

研究会への批評的テキスト1 フィリパ・ロスフィールド(翻訳:辻井美穂)
Article by Philipa Rothfield(Original Text)
研究会への批評的テキスト2 島貫泰介

研究会メンバーによる1年間の活動を振り返るコメント集
執筆者:天野たま 髙林白牛口二 平井優子 森山直人 山田せつ子(50音順)

報告サイト編集:天野たま、中島那奈子
企画:学校法人瓜生山学園 京都芸術大学〈舞台芸術作品の創造・受容のための領域横断的・実践的研究の拠点〉2020年度「老いを巡るダンスドラマトゥルギー」(研究代表者:中島那奈子)
Project by 2020 Fiscal Year “The Dance Dramaturgy of Aging,” Nanako Nakajima, The Interdisciplinary Research Center for Performing Arts at Kyoto University of the Arts 
本研究はJSPS科研費20H00009の助成を受けたものです。This work was supported by JSPS KAKENHI Grant Numbers 20H00009.